エビ中こと、私立恵比寿中学は2009年に結成し2012年メジャーデビュー。さまざまな出会いと別れを経て、現在は
真山りか 、
安本彩花 、
星名美怜 、
柏木ひなた 、
小林歌穂 、
中山莉子 の6人から成るアイドルグループ。結成当初のキャッチコピー「キレのないダンスと不安定な歌唱力」も今は昔、徐々に基礎体力をつけていき、今やパワフルかつ魅力的なパフォーマンスと歌声で見る側の気持ちを揺さぶるグループにまで成長
(ちなみに色分けはメンバーカラーですが、一部白バックだと文字が見にくいため若干色を変更している点、ご容赦ください) 。
様々なミュージシャンが楽曲提供しており、バンドサウンド全開のハードロックチューンからお涙頂戴なバラードまで、アイドルの特性を生かした何でもありジャンルレスな楽曲群も特徴の一つ。この
「何でもあり」 が実現できている、どんな曲が来ても変な違和感なく嵌るのは、6人
イロトリドリ な歌声があればこそだと思っています。
2019年、結成10周年を記念して『MUSiC』(3月発売、6人になって初めてのアルバム)とともに12月と師走の慌ただしい中に世に出たのが『playlist』です。余談ですが、初めてエビ中を聴く人は先に『MUSiC』を聴くのが良いかもしれません。よくエビ中に楽曲提供している方が多く参加されているというのもあるのですが、「この曲もあの曲もなぜシングルカットされてないのか・・A面集かよ!」と思ってしまうくらいキャッチーな曲が非常に多く(一方で「踊るロクデナシ」みたいなスルメ曲や、ファン人気の高いバラード「星の数え方」などがアルバムに厚みを持たせてくれています)、これぞエビ中の王道だなと思えるバカバカしさ、力強さ、繊細さも共存した一枚です。一応、Spotify貼っておきますね。
一方『playlist』は初めてエビ中に楽曲提供する方ばかりだったため、正直聴く前は不安でした。が、いざ聴いてみるとそれが功を奏してか、
「え、こんな歌い方できるの?なんか今まで開いてなかった扉めっちゃ開けてない??」 という場面がいくつかあり、メンバーそれぞれの歌の力に驚きを隠せませんでした。『MUSiC』がエビ中とは何たるか、グループとしての魅力を示しているとすれば、『playlist』は個々の魅力によりフォーカスした一枚だと思います。そして、過去の作品には必ず忍ばせていたオチャラケ要素をかなり削ぎ落し、ストイックさを前面に出したことで、『playlist』は対外的にもアピールできる作品になったと考えています。ここから1曲ずつ長々と書いていきます。
(以下、安本さん 休養中(今年3月末復帰)のライブ映像・PVが含まれているため画面上に5人しか居ないものもありますが、あらかじめご承知おきください。2019年、思えば色々あったなあ・・)
・
・
・
VIDEO
まず
1曲目「ちがうの」 から面食らいました。女の子側の移り気をテーマにしてるような歌詞にもですが、何よりアルバム1曲目とは思えない淡々とした始まりに驚きました。インパクト重視でなくじわじわ来る電子音主体のミディアムナンバー。『MUSiC』の場合はまさに1曲目という感じの「Family Complex」で仰々しくも華々しくスタートしたりと、全体的に分かりやすい流れを感じたのに対し、『playlist』はその真逆。「アルバムかくあるべし」的な縛りを一旦取っ払って、ただただ良い曲10個集めて一枚のCDに纏めたのが『playlist』なのかなと、
「この感覚、B面集に近いなあ」 と思ったのが最初の感想。誤解なきようにしていただきたいですが、B面集は別に揶揄した表現ではなく、なんならバンドやグループによってはB面の方がやりたい事やってるケースがかなりあるので、結果的にB面には隠れた名曲が多い印象です。そして『playlist』も例に漏れず、良曲スルメ曲オンパレードな作品でした。
2曲目「SHAKE! SHAKE!」 は
小林さん をフィーチャーしたオルタナロック。
「感情電車」 (from『エビクラシー』(2017))の冒頭などでも聴かせているように、ふわっとしながら伸びのある優しい歌声が特徴の
小林さん 。落ちサビだったりじっくり聴かせたいパートをよく割り振られ、曲全体に癒しを与える存在なのですが、この曲ではBメロなどで高音をスコーンと響かせていて聴いてて非常に痛快。初めて聴いた時、「おぉー!こういう声の活かし方があったか!」と膝を打ちまくりました。サビの「私、このまま 何も知らないまま歩いていく」という歌詞のように、無垢で無邪気な本人の気質そのままの歌声が曲とマッチしていて流石です。からの
柏木さん の
「分かったやつぁ返事しろぉ゛ぉ ゛ ぉ ゛ !」 の巻き舌シャウトでチビりますw
真山さん をフィーチャーした
3曲目「愛のレンタル」 では一気に大人な歌声に。非公式ですが正直公式より力の入ったライブミックス映像があるので
リンク貼っておきます 。
真山さん は他のメンバーと比べて様々な声色を使い分けている印象があり、時にはアニメ声でおどけたり、時にはカラダ全体を使って情熱的に歌い上げたり、大きな振れ幅から小さな振れ幅までオールマイティな頼れる姉さん的な存在です(さすが最年長!唯一のオリメン!)。この曲は感情を爆発させるというよりは平熱で、そして艶っぽく歌い上げていてグッときます。てか、こんなにファルセットが綺麗に響くのね
真山さん・・。 特にサビ最後の「踊ればいい」の部分、まじカッコイイ。最後のサビ前の
中山さん の「トゥルットゥール」も良い味出てますね。
VIDEO
そしてこのアルバムのリード曲でもある
4曲目「ジャンプ」 は
安本さん をフィーチャーした、これまでになかったくらいシリアスな曲。その昔「エビ中のボーカロイド」と言われるくらいまっすぐ抑揚のない歌い方をしていた
安本さん も、今は曲終わりにアドリブ入れたり、ライブ中は気持ちを前面に出して歌うことが多く、もともとの切なさが滲み出る歌声も相まって、見る側・聴く側の感情を増幅させるような、そんな存在だと思っています。この曲でも(PVには居ませんが)Bメロでの言葉の畳みかけ、最後のサビ前の「今だぁぁー!!」と、こちら側の感情を揺さぶってきます。しかし他のメンバーも鬼気迫る歌声、あの
小林さん すら優しさよりも鋭さを感じる、心に直で響くような。このPVがYouTubeで公開されてからというもの、「エビ中らしくない」という声もあったようですが
(そもそも何でもありのグループに対して「らしさ」とは?という感じですが) 、それ以上にシンプルに歌の力に圧倒されたコメントが次々飛び交ったのは記憶に新しいです。惜しむらくは、年末リリースだった故に(ただでさえ稀な)歌番組出演とかメディア露出の機会がほとんど無かったこと、そしてリリース当時に
安本さん が居なかったこと。
安本さんが昨年10月から 休養して以降しばらく5人でのライブが続いていましたが、今年6月のオンラインやついフェスで遂に6人でのライブパフォーマンスが披露され、6人での「ジャンプ」もようやくお披露目となりました。はじめてPVを見たとき、5人でのライブを見たときよりも遥かに衝撃が強く、ハートにぐさぐさ刺さりまくるパフォーマンスでした。と同時に、今まで以上に感情むきだしの
安本さん を目の当たりにして、
「こんな時間は、きっと永遠には続かない」 という刹那的な感覚すらおぼえました。この瞬間は二度とないかもしれない、だからこそ今のエビ中をもっと色んな方に見てほしいです。
5曲目「I'll be here」 は
柏木さん フィーチャー。なんとまさかの1番を全部
柏木さん が歌うという超絶フィーチャーっぷり。今までなかった本格的なR&Bナンバーですが、そこは安室奈美恵さんリスペクトの
柏木さん 、何の心配も要りません。歌の安定感、いわゆる一般的に歌が上手いと言われる条件である音を外さないとか歌に余裕を感じるとか、そういう観点で言えば他のメンバーより頭一つ抜けているかなと思うので、カラオケ番組に呼ばれるのは至極納得で。個人的には、彼女の憂いを含んだ歌声そのものに大きな魅力を感じるし、楽曲に合わせて絶妙に声色を調整する器用さも兼ね備えているところにも凄みを感じます。この曲も、一番はじめにレコーディングした
柏木さん の歌を他のメンバーが参考にしていたようですし、エビ中の歌を支える大黒柱的な存在であることは間違いないです。あの歌声があるから皆んな安心して好き勝手できる・・みたいな。あとこの曲は、
真山さん の艶っぽさもピタッとはまって良きです、あのお方もつくづく曲にあわせた声出すの上手いですわ。
VIDEO
6曲目「PANDORA」 は
星名さん フィーチャーのハードコアサウンド。初めてこの曲を聴いた時は驚愕でしたね。「うそぉ!こんな高音出るの!?」って。もともと彼女は高い声も出るし低い声もまた魅力的で、音域を縦横無尽に駆け巡れるタイプだとはわかってはいたものの・・。それでいて「パラドックス パラドックス パ!パンドラ パラドックス」と、アイドル的小悪魔ボイスで聴き手を翻弄させてくる恐ろしさ。
安本さん も気迫ある歌声であらゆるものをなぎ倒しそうな勢いですが、
星名さん には相手の動きを軽やかにすり抜けて的確に相手の急所をとらえるような恐ろしさを感じます。2018年の年末ライブのリハ中に起こった転落事故で思うように動くことが出来なくなり、2019年は出来る範囲でパフォーマンスが出来るようお立ち台を用意してもらっていたのですが、この曲ではそれを逆手に取った演出をしており、歌声と相まって彼女の佇まいはまるでお嬢のソレ。
星名さん の個性と凄まじさがハッキリ分かる一曲だと思います。なお、6月のオンラインやついフェスではお立ち台もなくなり、いよいよ完全復活が見えてきて嬉しい限り。
7曲目「シングルTONEでお願い」 はポセイドン・石川さんによる山下達郎よろしくなしっとりシティポップ。コーラスもポセイドンさんが担当しておりガッツリガッツの達郎サウンド(風)。その贅沢な音の中で、今まででは有り得なかったくらいしっとり聴かせる感じで歌い上げる6人が印象的です。「アイドルがこんな盛り上がらない歌うたって意味あるのか?」と思う人も居るかもしれませんが、それはきっとアイドルに対する偏見。
なんならエビ中は昔っから盛り上がる系の曲は他のアイドルと比べて少ない方です!w エビ中のライブ来てる人って、結構自分のペースで楽しんでいる人が多いように思います。わーわーはしゃぐ人も勿論居ますが、自分みたいに着席観覧席とかでじっと見る人も結構居たり。やたら一体感を強要されることもなく、人に迷惑をかけない範囲で好きに色々な楽しみ方が出来るのは、こういう聴かせる曲だったり、ふざけた曲だったり、様々な種類の楽曲がセットリストに散りばめられているからなのかなという気がします。そういう点でも、アイドルのライブに抵抗ある人も比較的まだ行きやすいかも?わかんないけど!
VIDEO
8曲目「オメカシ・フィーバー」 は
中山さん をフィーチャーしたダンスナンバー
(それにしてもこの非公式動画みたいな公式動画はは何なのかと・・らしいっちゃらしいんですがw) 。ハロプロ楽曲でもおなじみの児玉雨子さんが作詞をされているなど、かなりハロプロを意識した曲の作り方がなされていて、アルバムの中でも一番ポップで異彩を放っています。そんな曲中をちょこまかちょこまか動き回っているかのような
中山さん の歌もまた異彩というか、一際目立ちまくっています。幼さを残した印象的かつパワフルな歌声を響かせることもあり、
「ハイタテキ!」 (from『金八』(2014))の「惚れた?」など、ワンポイント起用というか、聴き手に強烈なインパクトを残すパートで重宝されている、いわばエビ中の起爆剤的な要素を司っていると言えるでしょう。もちろん歌が上手くないという意味じゃないことは、前曲「シングルTONEでお願い」の最後のサビ前を一聴しただけでお分かりいただけるはず。昔はぜんぜん声出てなかったのに
中山さん 、まさかこんなに年々パワフルになっていくとは思いもしなかったですわ。こっからさらに繊細さに磨きがかかってしまったらどうなるんだろ・・今後が楽しみです。それにしてもこういう派手な曲には挑発的な歌声を響かせる
星名さん がしっかり似合いますな、さすが
モデル さん。
そしてラスト前の
9曲目「HISTORY」 は、本人たちが個々で紡いだ言葉をいしわたり淳治さんが纏めた一曲で、これまでとこれからのエビ中が詰まったファン泣かせの1曲。歌詞を見てると、つくづくバラバラの個性なこの6人がよくこうして集まったものだと思わされます。
「クラスにいても仲良くならないタイプ」 とかハッキリ書いてるし、誰よ書いたのw でも、サビでは何度も「ありがとう」という言葉が出てきます。
出逢ってくれてありがとう
見つけてくれてありがとう
名前を呼んでくれてありがとう
必要としてくれてありがとう
メンバー同士に向けてでもあり、ファンに向けてでもある言葉たち。バラバラな言葉のなかにも、一貫してメンバーやファンへの感謝が綴られていて、シンプルにグッときます。そして、バラバラな個性同士だったからこそ、争い合い奪い合うわけでなく、お互いの道をお互いがリスペクトし合いながら高め合いながら続けてこれたのかなと、歌詞を見ながら改めて感じた次第です。
VIDEO
ラストはシングルにもなった
10曲目「トレンディガール」 でおしまい。このムーディーなスルメ曲が最後に来るのも意外で、でも色んな曲を聴いて高揚した気持ちを落ち着かせる終わり方も悪くないかもです。正直シングル曲として聴く分にはパッとしない印象が拭えないですが、アルバムを通して聴いて最後ここに辿り着く分には非常にしっくり来たので、曲順の妙というヤツかなと思います。そして、この『playlist』のおかげで好きになれた曲かもしれません。まずはランダム再生じゃなく、アルバムの並び通りの曲順で聴いていただきたいです。
・
・
・
用語を公式にあわせた方が良かった気もしますが
(例;ライブ→学芸会、結成→開校、ファン→ファミリーもしくは父兄(最近あんま聞かんけど) 等) 、そういうのは一旦置いておいて、メンバーそれぞれの歌をメインに書こうとしましたが、結果的にちょっと散漫な感じになってしまいましたね。
このグループの魅力として「何でもあり」ということを挙げましたが、それは逆を言うと
「型がない」 ということで。多くのアイドルは自らが得意とする型を模索しながら活動しており、基本的に売れているグループは強烈な型が、一聴しただけで「あーあのグループだな」と分かる何かがあると思っています。その方が見る側に分かりやすいインパクトを与えることができるし、運営側もその方が売り出しやすいから、というのもあると思います。一方エビ中は、たしかにライブ定番曲とかはいくつかあるのですが、色んな音楽をやってきた結果、型をもたない何だか知らない人に説明しにくいグループへと成長していきました。そうなると、これからエビ中のことを好きになってくれる人が増えるには
「この6人の歌、パフォーマンスがあれば何だっていいんだ!」 というくらい、メンバーへの全幅の信頼を寄せられるほど好きになってもらう、メンバーの歌やダンスの個性をある程度把握してもらった上で楽曲やライブを好きになってもらうのが一番なのかなと考えています。こんなブログが役に立つ気もしませんが、読んでいただいた方でまだエビ中を知らないという方への一助となれば幸いです。
本来であれば今年、この『playlist』を引っ提げた春ツアーが開催されていたはずなのですが、コロナの影響で全公演中止を余儀なくされました。しかし、8月16日(仮)に春ツアーをもとにした長尺のオンラインライブ(有料配信)が行われるとのこと。まだ詳細は出ていませんが、ひとまずそれを心待ちに生きながらえたいと思います。