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Spotifyプレイリストとか音楽のもろもろをつらつらと

樋口愛 / ヒグチアイ


ヒグチアイさんのベストアルバム『樋口愛』が9月にリリースされました。もっと色んな方々に聴かれるべき音楽だと常々思っており、これを機にブログで紹介したいと思います。





ヒグチアイさんは、平成元年生まれのシンガーソングライター。2014年に初の全国流通盤となる1stアルバム『三十万人』をリリースし、2016年にメジャーデビュー。時にピアノ1本でしっとり弾き語り、時にバンドを携えてソリッドに激しく響かせ、でもどんなスタイルであっても必ずヒグチアイの音楽の中心には太くしっかりとした「歌」が存在しています。

初のベストアルバムとなる『樋口愛』は、1stアルバム『三十万人』からこれまでにリリースされた楽曲から11曲を選りすぐるとともに(インディーズ時代の曲は新録)、さらに新曲2曲を加えた、この6年間の集大成ともいえる13曲が詰まった作品です。公式動画などをまじえて順番に紹介します。

(以下、各曲について個人的に思ったことを書いていきます。人によって感じるところも違うと思いますし、自分の解釈が間違っている箇所もあるかもしれません。ご容赦ください。)

(ピアノ弾き語りVer.)
1曲目「ココロジェリーフィッシュ」は1stアルバム『三十万人』にも収録されている代表曲のひとつ。PVではピアノ1本ですが(武田玲奈さんも出演しててビックリですが。汗)、ベスト盤ではバンド編成での収録です。海月のようにふわふわした関係性、どうにかしたいけどどうしようと揺れる心、でもどうにかしてやるという力強さがあり、歌のなかの主人公を通して自分の背中を押してくれているような、そんな気持ちになります。最後の歌詞「戻りたいなんて言わない 欲しいのは未来」が特に印象的。


2曲目「前線」はピアノ、ベース、ドラムのシンプルだけど鋭い音がカッコイイ。別の夢を手に入れた戦友を思いながら、あの頃の夢を追い続ける自分を鼓舞する曲。冒頭の「深夜3時 ファミレスのドリンクバーは優しい」っていう情景や心情がおもい浮かぶ描写が素敵。


3曲目「東京」は、地方から我儘で東京に出たけど、自分の甘さに気付かされた瞬間が切り取られた曲。「自分勝手で弱虫で帰る場所がある 私を笑ってる」の歌詞、自分にも思い当たる部分があって刺さります。


4曲目「まっすぐ」は、サビで何度も出てくる「ゴー ストレート」が耳に残る6分を超えるバラード。別れは辛いものだけどまずは出会えたことが何よりだし、間違いなんかじゃない。そしていつかまたどこかで会えるかもしれない、なんてことを思わせてくれる曲です、個人的には。

(メ~テレ『BOMBER-E』公式より)
5曲目「わたしのしあわせ」は一転、2分半と短め。我儘に人生を歩んで「わたしのしあわせは だれのものでもない」と謳って、でもそんな自分を心配してか色んなものを送ってくれる親への愛が綴られた曲。まさかこの曲がベスト盤に!と思いましたが、自分も地方から出てきた人間ですし、同じような境遇の人は多いと思うので、色んな方々が沁みる曲だと思います。


6曲目「ラジオ体操」は、今のところ自分が一番好きな曲。「ラジオ体操みたい きただけでもらえるハンコ 生きただけでもらえるハンコ よくがんばりましたって押してほしいよ」って歌詞がホント刺さる。大人になって誰かに褒めてもらえる、褒める以外にも誰かから何かを言われることが子どものときより一気に減って、勝手に自分で傷ついている今。そんなときにこんなコト言ってくれる人が居てほしいし、誰かにとってもそういう存在になりたいな、ならなきゃなって、この曲を聴くと思うのです。


7曲目「猛暑です -e.p ver-」は、ヒグチアイ楽曲には珍しく「聴かせる」というベクトルとは少し違う、どこかのこじゃれたお店で流れてても違和感のない異国情緒あふれる曲。歌詞をよく見ると「ハッピーエンドはドラマの中だけ」と上手くいかない恋の歌ではあるものの、それすら慣れっこな感じが漂っているのは気のせいですかね…。


3曲目から7曲目は割とゆっくりめの曲だったところから、8曲目「八月」で再びソリッドなバンドサウンドを展開する新曲で、ダークなピアノの旋律に慄きました。愛し合っていた頃の描写と終わる間近を思わせる描写のコントラストが圧倒的なPVもですが、歌詞も衝動的になっていったり、「これが愛なの?」と疑心暗鬼になっていたりと、恋愛の生々しさそのまま真空パックされたような凄みを感じます。自分はこういう経験を大してせず結婚したから、なおさらそういう感想になるのかもしれませんが。

(ヒグチアイDUO Live)
9曲目「黒い影」はインディーズから歌われている曲。その時代のライブ映像があったので、公式ではなさそうですが貼っておきます。こうして当時の映像を見てると、昔の歌い方はもっと陰が強くて重たい感じだったんだなあ…。歌詞も自分の中のもう一人の自分への叱責、明日じゃなく今さらけ出せという強いメッセージを感じます。冒頭「午後6時歩道橋に伸びるもう一人のキミ」はきっと、他人じゃなく自分の嘘偽りない心を描写してるのではと解釈したのですが、合ってるかな?


10曲目「わたしはわたしのためのわたしでありたい」は、J-POPを少し意識したような音づくり。でもその分、より説得力をもって言葉が伝わる作品になった気がします。自分と一番関係しているのはやっぱり自分自身だし、自分の思うように生きようという宣言にも似た言葉たちの数々。個人的には「なにが不満だって 言えないよわかって 誰のせいでもないんだよ」のあたりは自分の思ってた事と重なる部分があってグサッてなった。


11曲目「最初のグー」は、仲間思いの強い友のことを唄った曲。この曲だけYouTubeに良さげな動画がなかったのでSpotify貼っておきます。絶対逃げないの分かってるけど「かっこ悪くていいから いざという時は絶対逃げて」って伝えたい感情、すごく分かる。


12曲目「備忘録」はこれまであった様々な出来事、思っていた事が赤裸々に綴られた曲。色んな事があったすえに最終的に「全てを捨てたつもりで全てのおかげさん」と、とても力のある言葉に行きつくのが鳥肌というか、「あの頃があったから今がある」と思えることの強さを感じました。なかなか思えないときもあるけど。


ラストは13曲目「東京にて」。3曲目にも「東京」という曲があったけど、あの曲は東京に来てすぐくらいの曲。この曲は、東京に来てしばらく経ったなかで2019年には出来上がっていた新曲。自分も東京に住み始めてそろそろ10年くらいになります。たくさんの情報とともに虚無を感じることが多い街だけど、他人の受け売りみたいに東京を蔑むことなく(蔑みたくなるときもあるけど)、「誰かの作った方程式じゃない 新しい答えを作ろうよ」という歌詞のように自分の思うように生きていきたいと改めて考えさせられました。





ヒグチアイさんの音楽は、地方から東京へ出てきた歌の主人公(おおむねヒグチアイさんご本人だと思いますが)を通して、時に聴き手を叱責したり鼓舞してくれたり、忘れてはいけない家族や仲間への感謝を改めて思い起こさせてくれたり、湧き上がる感情に寄り添ってくれたり…ひと言でいえば「そばにいてほしい」音楽だと思っています。常々色んな人に聴かれるべきと思っているのは、そういう風に誰かを支えてくれる歌だから。自分自身に投げかけている、自分自身を削いで出来た作品だからこそ、説得力のある太くしっかりした「歌」になるのだと。

こういう音楽がもっと売れてほしい。カラオケ採点機能なんかでは測れない伝わる音楽が、色んな人のための音楽がもっと世間に広まってほしいです。
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